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名古屋高等裁判所 平成3年(行コ)20号 判決 1992年6月30日

名古屋市名東区高針台一丁目五一一番地

控訴人

藪亀淳夫

右訴訟代理人弁護士

野呂汎

佐脇敦子

名古屋市千種区振甫三丁目三二番地

被控訴人

千種税務署長 板倉道俊

右指定代理人

森本翅充

大圜玲子

柴田秀明

伊藤久男

松井運仁

右当事者間の所得税更正処分取消請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人が、控訴人の昭和六二年分所得税について、昭和六三年七月二〇日付でした更正及び過少申告加算税賦課決定(但し、昭和六三年一二月五日付異議決定により一部取り消され、更に平成元年一一月一五日付の再更正及び過少申告加算税賦課変更決定により一部減額された後のもの)を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、

被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上及び法律上の主張は、次に付加する外、原判決の事実摘示(原判決二枚目表三行目から同一二枚目裏五行目まで)と同一であるから、ここにこれを引用する(但し、原判決二四枚目表五行目の「同町二九番地」を「同町二九番の二」改める)。

(控訴代理人の陳述)

一1  所有者本人が現実に生活の本拠として利用していない場合であっても、広く配偶者等が居住の用に供している家屋であれば、これを実質的にみて、本人の居住用家屋に該当するものと認めるべきである。即ち、所有者本人が勤務先の事情等により厳密な意味で未だ本件資産に永続して居住したことがなく、また、本人が単身で居住しているスカイマンションが本人の所有であるとしても、本件においては、母や妹の健康状態等からみて早晩同居することが予定されていたから、従来その扶養親族である両親等と一緒に住んでいた者が、両親等を従来の家屋に残して、妻子だけを連れて転勤し、転勤先において社宅に居住しているという場合と同視すべきであって、控訴人本人の扶養家族である、妻昌子、母藪亀幸子、妹藪亀京子が居住の用に供している本件資産は、まぎれもなく本人の居住用家屋に当たるというべきである。

2  昭和六一年二月に、控訴人、昌子、二男恭明が本件資産の住所地に住民票を移動した当時、妹京子は重症の糖尿病により入院中であり、また、母幸子は高齢と病気のため一人で生活するのが困難な状態であって、いずれも控訴人及び昌子が本件資産に移り住んで生活を共にしなければ、その生存すら危うい状態であった。このような事情にある母や妹は、健常な者とは異なり、控訴人本人と同居することが社会通念に照らし通常であると考えられる者である。また、控訴人、妻、母、妹という控訴人の家族の「日常生活の状況」からいって、本件資産は居住用家屋と認められるべきである。

3  家族全員の生活状況、特に勤務先や進学先の状況によっては、二以上の家屋のいずれもが居住用家屋に該当する場合がある。このような場合に、行政上の必要から居住用家屋と認められるのが一つに限られるとしたら、その選択は所有者本人に委ねられるべきであり、本件においては、控訴人は本件資産を買換特例の適用を受ける居住用家屋として選択したのである。

二  控訴人は、千種税務署に三回出向いたが、二回目のとき親族の生活状況をできる限り説明したところ、担当官から「分かりました。こういう書類を提出して下さい。」と指示されたので、指示どおり必要書類を揃えて、三回目に申告書を提出したのである。以上の経過に鑑みれば、控訴人が買換特例を受けられると信じたについては無理からぬ事情が存したというべきであるから、国税通則法六五条四項にいう正当な理由があったと認めるべきである。

(被控訴代理人の陳述)

いずれも争う。

(証拠関係)

本件記録中の原審における書証目録及び証人等目録の記載と同一であるから、ここにこれを引用する。

理由

一  当裁判所も控訴人の被控訴人に対する本訴請求は、失当としてこれを棄却すべきものと判断する。その理由は、次に訂正・付加する外、原判決の理由説示(原判決二枚目表一〇行目から同五枚目表八行目まで、及び同一二枚目裏六行目から同二二枚目裏六行目まで)と同一であるから、ここにこれを引用する。

1  原判決一五枚目裏四行目の「甲一の三、」から同六行目の「原告本人」までを「いずれも成立に争いのない甲第一号証の三、第二、三号証、第一五号証、乙第一乃至第三号証、第四号証の一、二、原審証人藪亀京子の証言により真正に成立したものと認められる甲第八号証、原審における控訴人本人尋問の結果により、原本が存在し、かつ真正に成立したものと認められる甲第一一号証、いずれも弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第四号証の一、二、第五号証の一乃至六、第七号証の一、原審証人藪亀京子、同藪亀昌子の各証言、及び原審における控訴人本人尋問の結果」に、同末行の「前夫」を「夫」に、同一七枚目表一、二行目の「移転した。」を「異動した。」にそれぞれ改め、同裏六行目の「その仲介で」の次に「山本栄造と」を加える。

2  原判決一八枚目裏五行目の「同居し、昭和六二年一月にこれを売却した」を「同居するようになったものの、控訴人は、その妻ともども一度も本件家屋を生活の拠点として利用したことがないまま、昭和六一年八月二三日山本栄造との間で本件資産の売買契約を締結したうえ、翌昭和六二年一月にこれを明け渡した」に、同一九枚目表一行目の「移転し、」を「異動し、」に、同七行目の「原告の」から同九行目の「こと、」までを結局実現しなかったし、控訴人の母及び妹は、これまでの経緯から本件家屋に居住するようになったにすぎず、控訴人の生活の本拠が近い将来本件家屋に移転されることを前提にして、居住を始めたものではないこと、」にそれぞれ改め、同裏三行目の「照らすと、」の次に「スカイマンションがエレベーターのない集合住宅であること等」を加え、同五行目の「いうべきである。」を「いうべきであり、スカイマンションと本件家屋がともに居住用家屋であるということもできない。」に改める。

3  原判決二〇枚目裏八行目の「甲一二」から同九行目の「原告本人」までを「前顕乙第三号証、いずれも成立に争いのない甲第一二、一三証、原審における控訴人本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一四号証、及び原審における控訴人本人尋問の結果」に、同末行の「譲渡資産に関する明細書」を「譲渡資産などの明細書」にそれぞれ改め、同二一枚目表四行目の「係官は」の次に「、買換特例の適用があるとすれば、その場合の必要書類につき説明したものにすぎず、本件資産に対する」を、同四、五行目の「有無については」の次に「具体的に」をそれぞれ加える。

4  原判決二一枚目裏三、四行目の「甲一の五、甲一三、乙三」を「前顕甲第一三号証、乙第三号証、成立に争いのない甲第一号証の五」に改め、同二二枚目裏一行目の「となる」の次に「総所得及び長期譲渡所得の各金額を前提とした税額の計算関係については、当事者間に争いがない)」を加え、同三行目の「六五条一項」を「六五条一項」を「六五条一、二項」に改める。

二  そうすると、右と同旨の原判決は相当である。

よって、本件控訴を失当として棄却することとし、控訴費用の負担について行訴法七条、民訴法九五条本文、八九条を通用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 土田勇 裁判官 喜多村治雄 裁判官 林道春)

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